身辺のこと
今住んでいるアパートのすぐわきに、空き地がある。ここに越してきたときは野ざらしの空き地だった。それが分譲住宅へと早変わり。今、建設ラッシュ。
鉄骨が、骨のように取り囲み、ブルーのシートが覆いかぶさっている。まだ、中はがらんどう。
空き地が埋まっていく。猫が一匹、二匹、そこを歩いていく。踏み心地が変わっただろうな。アスファルトになった。夏は照り返しが暑くなるのだろうな。
アパートのもう一方には、老夫婦が住んでいる。品のいいおばあさんは、毎朝竹箒で冬の朝を奏でている。その音で自然と目覚めたある日、ながら煙草を吸いながら外に出た。まだ、おばあさんは奏でている。
「おはようございます」と声をかける。驚きもせず、ゆっくりと振り返る。いつも、おだやかだ。素敵だな。自然と表情が緩む。煙草の煙で、誤魔化す。
おばあさんは、自宅のすぐ裏手にある、小さな祠を掃除していた。いつも気になっていた。こんなところに、やたら古めかしい祠があるのが、意外だった。
猫がいる。祠の周りでのびをしていた。おばあさんに驚くことなく、おばあさんも追い払うことなく。
「これはいつからあるのですか?」
「さてねぇ。もう随分と昔、私が生まれたときにはもうこんな感じであったわ。誰が建てたのかも知らない。この地区が管理しているわけでもない。近くにあるから、私はたまに掃除するだけよ。」
遠い目。優しい表情。木枯らしが吹いた。寒さはない。くゆらせていた煙草のけむりが、彼方へと飛んでいった。