午後の散歩

朽ち果てたアパート。

外壁は爛れ、鉄筋は赤錆に覆われ、周りの家々の生気が嘘のように、そのアパートは朽ちていた。

路地を歩いていた。冬の午後。冷気が和み、今日は日差しが柔らかい。皮膚に訪れる風が、今日はいつもより親しげだ。

ひとり、歩く。コンクリートブロックの石垣が、視界に入った。その向うには、空が見えた。路地よりも敷地が少し高いせいか、その石垣を見ようとすると、そのまま視線は空へ向かう。空。

そのまま歩いた。やがて、その石垣が少し奥まり、「宮崎一」の表札が。門と郵便受けが、テープで塞がれ、表札にはひびが入っている。

「かつて、ここに、あった」―空虚。

また、歩く。「入居者募集中」の張り紙。がらんどうの室内が、窓越しに見える。午後の日差しが、その部屋に半分だけ差し込む。窓越しには、その光に暖かさを感じることは無かった。

家々のあいだを縫うように、畑がときおり目につく。水分を失った表土。土からもカサカサと音がしてくるようだ。枯れ草が、畑の端にたまっていた。

紙の擦れる音を聞きながら、煙草を手に取る。手をかざし火をつける。一瞬の温もりを、木枯らしがさらっていった。

空に溶け込みそうな月が、午後の日をせかしている。ゆっくりと、その下を飛行機が飛ぶ。