コンパートメント

例年通り、乗車率は100%を超えている。

あと三分で発車。改札を通るときだった。慌てて乗り込んだ車両は指定席。もちろん切符は自由席。コンパートメントで一時間を過ごすことにした。

田中純『政治の美学』を開く。日暮れ前の最後の日差しを浴びながら。15分ほど経った小山を通過中のこと。ページの上にちかちかと影が落ちる。その刺激が思いのほか強く、ドアの窓から外をうかがう。等間隔にならんだ鉄骨が、日差しを遮って画中画のテレビのごとく、8mmフィルムをまわしているようだった。

映画のような、不思議な光景だった。現実か虚構か。車両ドアのガラスが歪めていた。